


これまで歩んできた道を振り返ると、あまり欲を求めない生き方をしてきたと思う。
穏やかに、緩やかに淡々と過ごす日々に不平があった訳でもなく、
人なりに物欲はあったかもしれないが、さほど大きな買い物をしたこともない。
そんな自分と、連れ添ってくれた妻のために、人生のご褒美として家を買った。
にぎわう都市から距離を置いた土地に、囲炉裏のある古民家風の家を。
私たちが子どもの頃によく見かけた、これぞ日本家屋という大屋根の外観。
内に踏み込むと黒光りする極太の梁が大胆に現れ、壁は風合い豊かな塗り仕上げ。
それは私たちの理想そのもので、あたため続けた夢がいま、ようやくかなった。

朝、私は庭の畑で土と戯れ、妻は囲炉裏に火を入れ、吊るした鍋で朝食支度。
先進のキッチンももちろん備えてはいるが、私たちは昔に還る暮らしを望んでいた。
囲炉裏を前にしていると、昔懐かしい友と語らうような安らぎが感じられ、
自然に心がゆるりとほどけていくのがわかる。
盆や正月には子どもや孫も火を囲み、パチパチという音に驚きながら鍋をつつき合う。
そんなほのぼのとした時間のなかにある、ささやかな幸せもありがたい。
これまで多くを求めなかったのだ、少しくらい贅沢をしても罰は当たらないだろう。
私たち夫婦の生涯最大の買い物は、最高の人生を演出してくれるに違いない。
